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タイトルが適当じゃないかって、そ、そんなの僕の勝手だろうっ
――やっぱり…適当すぎたのかな…。
如月狩耶は戦々恐々としていた。
まさかこんなことが現実に起こるだなんて。
狩耶の額からは冷や汗がにじみ出ている。
これでもかと開かれた瞳は、驚愕と焦りの色に染め上げられていた。
「こ、こんな筈では…」
しっかりと戦略をたててきた。戦術だって完璧だったはずだ。
戦略と戦術の区別は、お手元の辞典でお確かめください。
なんて冷静な解説がつけられないくらいに、まるで綺麗に磨き上げたワインガラスが木っ端微塵に吹き飛んだかのような衝撃だった。
この衝撃をきっと狩耶は一生忘れないだろう。
「ふ…」
思わず口から出そうになった言葉を、狩耶は唾とともに無理矢理喉奥へと押しやる。
――そうだ、これは何かの間違いだ。まるで願掛けをするかのような気持ちと共に狩耶は、もう一度ソレに目を向けた。
そう、我が運命の宿敵――いや、もはやこうなっては強敵と書いて「とも」」と呼ぶしかない――体重計に。
「太ってるじゃないかあああああああああっ!」
普段は大声をあげないのに、普段の声が元々無駄に声量がでかいと大絶賛受付拒否られ中の狩耶が叫んだ。
「そ、そんなはずはないッ! カロリーは計算していた。ノートにわざわざ書いて計算したんだぞ!」
1人になると無駄に独り言が多い悪癖を、狩耶は隠そうとはしなかった。
いや、そんなことを気にする暇がないほどに、狩耶は恐怖しているのだ。太る、それは狩耶にとって忌まわしい出来事だ。
痩せの大食いで、誰よりも人一倍ものを(下品に)食べあげることに太らないということを、狩耶は内心誇っていたのだ。
だがその神話もつい一ヶ月ほど前に崩れ始めた。
そしていまやその名残さえも消滅していた。
計算は間違っていない、なんでなんだ!と焦る狩耶に、さきほどまで部屋の片隅にいた男がノートを覗き込む。
「それ、0が一個少ないんじゃないかな。」
苦笑しながらも言う男の言葉に、狩耶の手からノートがすべり落ちた。
まるで自己の転落を示すかのように(注意:あくまでこれは狩耶の脳内思考であり、傍目から見た場合には大きく異なる場合があります)。
――完敗だ。我が強敵(とも)よ。今日ばかりは貴様に勝利の美酒を捧げるしかないようだ。
勝利の美酒――我が鉄拳を。
「わーーーーッ!!! まてまてまてまて!」
男は狩耶の振り上げた拳を背後からつかみとった。
「とめないでくれ、待雪のアニキッ!男とは死ぬ間際に何をしたかで男が決まるんだーッ!」
「いやいやいやいや、このままだとちっぽけな男にしかなんないから!それに死なないし、むしろ死ぬのは体重計だし、しかもウチの備品だし、その上君は女の子だよっ」
「お、女の、子っ。僕が…」
部屋の片隅でひざをまるめて暗く沈む狩耶を傍目に、待雪氷雨は体重計を緊急避難させた。
思えば狩耶がここにやってきて既に一週間が経過した。
氷雨の閉じた瞼の裏に、はじめてここへやってきた初々しい狩耶の姿が映る。
なんとも丁寧で真面目そうな礼儀正しい少女で、まさに優等生を絵に描いたらこうなるんだろうなと氷雨は思った。まぁその直後に渡された履歴書の性別欄を目にした瞬間に、その認識は消滅したのだが。
実際のところ最初はそつなくこなしていたが、わずか三日でボロがではじめた。
おっちょこちょいで、冷静とみせかけて実は直情的で、そのうえ短気で、しかも自己陶酔しやすいのか興奮すると文字通り言葉と暴力の暴走が始まる。
火がつかない限りは物静かで表情はいつも無愛想なのだが、一度脳内でキャンプファイアー「もえ~ろ、もえろ~~よ♪」がはじまると表情もころころとよく変化するので、見てて飽きはしないリアクション大王だ。
実はこんなことが始まったのはある言葉がきっかけだった。
「あれ、すこし顔がふっくらとしたんじゃないですか?表情がやわらかくなってますね」
――我ながらもっと考えればよかったと猛反省している。
「そ、そんなことはないです。僕はこれでも痩せの大食いで、太ったことなんてないんですよ」
いや、狩耶の返答こそが予想外だったのかもしれない。
そして今に至る。
「狩耶先輩、ほら…緑茶淹れるからさ」
棚から茶の葉を出す氷雨。
「いただきます待雪団長」
暗く沈んでいた狩耶はすでにテーブルに座ってマイカップを両手に握り締めている。
こうして平然とした顔で緑茶を飲む狩耶の姿に、氷雨は変わり身がはやいなぁと思う。
「ほら、クッキーもあるよ」
「いただきます」
もりもりとクッキーを食べる狩耶の姿に、氷雨は緑茶にクッキーという組み合わせを疑問に思わないかと思う。
「あと、ケーキもあるんだよ、冷蔵庫に――」
がさがさと冷蔵庫を漁って無言でケーキを発掘し一人喜ぶ狩耶に、氷雨はまさか全部食うのかなぁと思う。
「――じゃあ、お皿を出そうか。」
すでに空になったケーキのケースを丁寧に折り畳む狩耶の周りにケーキの姿がなくて、氷雨はまさか全部たべたのかどうやったのだと思う。
「………だから太るんだね。」
部屋の片隅でうずくまる狩耶とそれをなだめる猫の姿に、氷雨はこれからも明るくなるだろう『まろんとるて』の姿を見るのであった。
そして狩耶にドロップキックをしかける猫の姿に、そんなことはなかったと思い改めるのであった。
ん、あれ、日記じゃなくなってるような、いやこれは日記だぞっ。
ち、ちなみに、いつもの僕はこんなんじゃないですからっ。
だが、見られるかもしれない日記、ど、どのように書けばよいのだろうか。
ところどころ、おかしな文章の羅列になるかもしれないし、見にくいかもしれない…。
だから、どうでもいいと思ったのなら、この日記を閉じてくれて構わない。
少し興味がある人が見てくれるのなら、…それなら、嬉しい…。
う…。さ、さっきの発言は気のせいだからなっ。
は、発言っていったら、日記じゃないみたいだな…。
やはり日記は難しい。
自己紹介が遅れた、僕は如月狩耶という、何の変哲もない極々平凡なクソガキだ。
気がつくとこの学校にいたんだ。
このおかしな力に目覚めてしまってからというものの、碌なことがないんだ。
なぜかこの学校にいるし、ゴーストタウンで戦うはめになるし、な、なぜかこんな姿になっているし…。
でも、何のとりえもなかった自分にとっては…、この力はなんだかんだで世話になっている。
周りの人たちが皆怖かったのが、今は不思議とそう感じなくなって、この力で戦って守ることができた。
昔にかじった武術も、今になって役立ってきて、今までやってきたことが無駄ではなかったと思えた。
この姿でさえ、なければ…素直に感謝できたろう。
とにかく今はもっと様々な面で精進しないと。
そう――、できてあたりまえのことを確実にこなして、着実にこの力を役立てるんだ。
この学校での生活、きっと役立たせてみせる…っ。